学生のころから、よく本を読んでいたと思う。
思春期に差し掛かる頃に、まさに厨二病を発症した。
子ども当時の自分にはどうにもできない環境の変化だったりもあったけれど、
急に心許ないような感情、周りと馴染めないような感覚が芽生えた。
はっきり生きづらさが生まれた。
それは大人になっても消えないまま、若い頃はずっともがき苦しみ、そのおかげか年を取って今は随分とマシになった。
小説を読んで本の世界に逃げ込み、実用書を読んでどうしたら心が強くなれのか、
うまくコミュニケーションがとれるようになるのか、手段をもとめていた。
見知らぬ誰かが書いた文章に救いを求め、生きるヒントになるような言葉を探していた。
うまくやれない自分を許せず、責めて、閉じていた。普通が、世間が遠かった。
そういう自分にとって、現実の人間関係よりも、本の中の言葉の方が近しい存在だった気がする。
出会いは、人だけではなく本にもあると思う。
たまたま手にとった一冊が、世界と自分の繋ぎ目になる。
作者の世界観、感覚のようなものがどこか自分と似ていて、体感で理解できたり、
自分が考えていたのと同じようなことが書かれていたりすると、どこか安心感を覚える。
ああ、自分だけじゃないんだ、似たような感覚や考えの人もいるのだと。
会ったこともない作者の言葉が、私と世界を繋いでくれたように思う。
こんな世界観があったのか、こんな価値観があったのか。
誰にも打ち明けたくないような、こんな気持ちの悪いとしか言えないような心の機微を
微に入り細を穿ち書く人がいるのか。
自分だけじゃなくて、本当は皆こんな気持ち悪いものをどこかに抱えていて、それを普段はうまく隠しているだけなのかもしれないと奇妙な安心感を覚えたり、
こんな人が近くにいてくれたらなあという登場人物たちに慰められたり、
作者の人間を見るまなざしの優しさに安心したり。
「海は僕を見つめた」は、いつ買ったのか覚えていない。
若い頃にブックオフをふらふらしていて、たまたま手に取った気がする。
自分と似た人がいると思った。
主人公と性別は違うし、環境や育ちや何もかも違うけど、でも似ていると思った。
現実には存在しない人。
でも、確かにいる。
この本を読んだ瞬間から、私の世界は自分と似た人がいる世界になった。
ああよかった、自分だけじゃないんだ。
最初、僕は海を見つめた、だと思っていた。
「海は」だと気がついた時の喜び。
自然が与えてくれるたくさんのもの。
自然の中にしか見出せない慰め、安らぎ。
何も言わない、何もしない、でも確かにそこに在る。
海が見ていてくれる、という願望なのかもしれない。
電子は不安定で常に動いていて、見られた時にその位置が固定される…みたいな話を読んだことがある気がする。
視線を感じる、ということがあるけれど、視線は電気信号的な何かを届けるのだろうか?
難しすぎてわからないけれど、人間もいろんな有機物も無機物も原子の集合体なのだから
自然とも反応し合うのかもしれない。
森林浴だとか、海を眺めている時のあの感覚、風の心地よさ、確かに人間は自然の影響を受ける。
自然はどうだろう。植物に言葉をかけると、生育に影響があるとか言うけれど。
大人になって、音楽を通して、大切な仲間ができた。
出会った頃と今とでは、随分変わったと思う。
変わろうというよりは、変わらざるを得なかった。
強くなりたいと思って生きてきた。
求めていた強さとはまったく違うけれど、ある種の強さが自分の中にあると気がついた。
普通にはなれないと、自分を諦めたときに初めて意味を持った強さ。
若い頃の自分は、理解してもらおうという意識に欠けたまま、どうせわかってもらえないという可愛げのない態度でいた。
自分のことしか考えられず、今振り返ると本当に恥ずかしい態度や振る舞いをしていたと思う。
それなのに、あの当時の自分に優しくしてくれた人達がいた。
今になってただありがたく噛み締める。
折に触れて本を読み、恥をかき、震えながら夢に向かって、自分の殻が削れていったような、
余計なものが削ぎ落とされたような、どろどろした中身が抜けたような、そんな気がする。
夢破れて、最後に残ったのはただの自分。一番遠ざけようとしていたもの。
良い悪いは別として、随分変わった。
普通になれないなら、なる必要がないと自分を許せたなら、
じゃあどうやって生きていこうか、どうすれば生き抜けるのか、
色々焦るべきだし、先々考えて行動すべきなのだけれど、力が抜けてしまっている。
何かしたいけれど、何をしたって自由なのだけれど、ずっとガス欠みたいな感じがする。
自分で言うのもおかしいけれど、これまでずっと、相当頑張ったのだと思う。
自分で自分に無理をさせた。疲れ果てるのも無理はないのだろう。
惰性でも何でも、今はとにかくしのいでいかなければならない。
死ぬまで生きる、ただそれだけな気がする。意味とか価値とか、そんなものとはきっと無縁な感じに。
海は僕を見つめた/スティーヴン・ラリー・バイラー
本

コメント